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福井地方裁判所 昭和32年(行)6号 判決

原告 谷口博 外二名

被告 白山村議会 外三名

主文

本件訴訟を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、被告議会が昭和三二年六月二九日被告尾山善作、八本木善三郎、辻茂作を白山村選挙管理委員に選出した選挙は無効であることを確認する、右選挙における右被告三名の当選は無効であることを確認する、との判決を求め、その請求原因として、

(一)  被告議会は昭和三二年六月二九日従前の委員の任期満了に伴いその後任として被告尾山、八本木、辻の三名を白山村選挙管理委員に選挙し、右三名を当選人と決定(以下単に当選と云う)した。けれども右選挙は地方自治法第一一八条第一項、公職選挙法第四六条に定める単記無記名投票の方法によらずに三名連記無記名投票の方法によつたものであるから、その投票は無効であり、従つて右選挙及び当選も亦無効である。

(二)  そして原告等は白山村議会議員であつて、現に住民から解職請求を受けているが、右被告三名の構成する同村選挙管理委員会は原告等に対する解職請求署名簿の審査を終え有効署名が法定数に達したことを決定し、昭和三二年八月一五日これに対する原告等の異議を却下した。けれども右選挙及び当選が無効であるときは右三名の構成する同村選挙管理委員会の右署名簿に関する決定も亦無効となる。それ故に原告等において右選挙及び当選の無効確認を求める利益があるから本訴に及んだ。

と述べ、

(三)  被告尾山善作及び被告議会の(一)の主張につき、

本件訴訟は地方自治法第一一八条に基く訴訟であつて、原則的には被告等の主張するとおり訴願前置の規定が適用せられる。けれども、本件訴訟は、

(イ)  選挙及び当選が無効な場合であるから、地方自治法第一一八条第五項、第二五五条の四、第二五六条第一項の規定中争訟の提起期間を定めた部分は適用なく、原告等は何時でも異議の申立または出訴し得るのである。

(ロ)  仮にそうでなく右に云う争訟の提起期間を定めた部分の適用があるとしても、右選挙の行われた被告議会の定例会においては出席議員中反原告派議員が絶対多数を占めていたので、原告等が異議を申立てたところで到底勝算の見込がなかつたから直ちには異議申立を行わなかつたが、原告等はその頃議長に対し口頭で異議を申立て、その後同年八月一三日書面で異議を申立てた。

(ハ)  また仮に右主張が認められないとしても、原告等は現に解職請求を受けていて、前記被告三名が構成する白山村選挙管理委員会は原告等に対する解職請求署名簿の効力を審査決定し、昭和三二年八月一五日右署名に関する原告等の異議を却下したのであるから、近く解職手続が進められるやも知れず、到底異議、訴願を経て出訴する時間的余裕がない。このことは行政事件訴訟特例法第二条但書に云う「正当な事由」のある場合に当るから、直ちに出訴し得る。

以上の理由で、本件訴訟は異議、訴願を経ない不適法な訴と云うことはできない。

(四)  同(三)の主張事実は訴の利益がないとの点を除きすべて認める。

と述べた。(立証省略)

被告尾山善作訴訟代理人及び被告議会は、先ず、

(一)  地方自治法第一一八条による本件訴訟は同法第二五五条の四との関係から選挙の投票に関し先ず異議を申立て、被告議会の決定に不服のあるときは福井県知事に訴願し、その裁決に不服のあるときは初めて裁決のあつた日から二一日以内に出訴し得るのであるが、本件訴訟は右手続を経ることなく直ちに出訴したものであるから不適法である。

と述べ、

次で、原告等の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、

(二)  原告等が白山村議会議員であること及び原告等主張の(一)の事実中その主張の日時、その主張の選挙が行われ被告尾山、八本木、辻の三名が当選し、白山村選挙管理委員に選任せられたことは認めるが、右選挙及び当選は有効である。すなわち、右選挙が行われた被告議会の定例会には現存議員一六名中一三名(原告西田は出席、他の原告は欠席)が出席し、全員が右被告三名を選出することに意見が一致したので、全員が三名連記無記名投票に賛成し、投票の結果同被告等が当選と決定したのである。従つてその選挙方法は地方自治法第一一八条、公職選挙法第四六条に違反したとしても、選出せられたものは当初全員が選出することに同意した右被告三名に外ならなかつたのであるから、右の選出方法は同法第一一八条第二項に定める指名推選として有効である。

(三)  仮に右選挙及び当選が無効であるとしても、右被告三名は昭和三二年九月一六日白山村選挙管理委員を辞任し、同年一一月二日その後任として訴外寺尾栄一、奥田重三郎、恒本利雄の三名が適法に選出せられ、同人等は同月四日その就任を承諾し、現にその職務を行つている。従つて右被告三名は現在完全に選挙管理委員の地位を失つているのであるから、今さらその選挙及び当選の無効確認を求めることは無意味であつて、本件訴訟はその利益がない。

と述べ、

被告八本木善三郎、辻茂作は、原告等の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、原告等が白山村議会議員であること及び原告等の主張日時、その主張の選挙が行われ被告等が白山村選挙管理委員に選任せられたことは認める、と述べた外被告尾山及び被告議会の答弁(三)の主張と同一の主張を為した。

(立証省略)

理由

先ず本件訴訟が原告等の主張する地方自治法第一一八条に基く訴訟として適法であるかどうかについて考える。

成立に争のない甲第一号証によると、選挙管理委員並びに補充員の選定の件等につき昭和三二年六月二九日(同村議会議員堀江利一が代行議長となり)白山村議会定例会が開かれ、選挙管理委員を選挙の方法で選出することとなり、その投票の方式を三名連記無記名投票と定め、投票の結果(投票総数一三票)被告尾山善作(一一票)、同八本木善三郎(一〇票)、同辻茂作(一〇票)(その他白票二票)が選出せられ、当選人と決定せられたこと及びその開票は議員横井豊、同上出国岡の二人がこれに当り、有効投票一一票及びその内右各被告に対する有効投票数を右表示のとおりと決定しその結果を宣言したのは議長堀江利一であつて、被告議会はこの決定に異議を申立てるものがなかつたから、これに基いて右被告三名を当選人と決定したもので、この当選決定についても何等異議がなかつたことが判かる。

ところで地方自治法第一一八条による訴訟の対象となし得るものは投票の効力に関し異議があつた場合に為される議会の決定である。すなわち、同条第一項末尾の「投票の効力に関し異議があるときは議会がこれを決定する」とある「異議」は開票の結果各投票の有効無効を決定する議長(本件においては議長堀江利一)に対する異議(投票が有効または無効であるとの理由で再審査を求める意思表示)であつて、その申立時期は投票が行われてから次の議題の審議に入るまでの間であり、この異議があつた場合は出席議員全員が改めて投票の効力につき審議し、そこで初めて議会として投票の有効無効を決定するのであつて、右に云う被告議会の決定が訴訟の対象となるのである。そしてこの決定に不服のある者は同法第一一八条第五項、第二五六条第一項により、決定のあつた日から二一日以内に福井県知事に訴願し、その裁決に不服のあるものは、裁決の日から二一日以内に出訴し得るのである。しかるに本件においては、右に云う被告議会の決定があつたことを肯認するに足りる証拠は何もないのみか、かえつて、甲第一号証によれば、右に云う異議の申立さえも無かつたことが判かる。それ故に本件訴訟は訴訟の対象を欠く不適法な訴と云わなければならない。

よつてその余の判断をまたずして本件訴訟を不適法として却下することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神谷数夫 市原忠厚 鹿山春男)

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